しずおかMaaSを体験してみた

はじめに

RAの西田(@r_nsd)です.2019年11月1~30日までの1ヶ月間,静岡市でMaaSの実証実験が行われているので,体験しに行ってきました.「今回の実証実験について」と「体験を通して感じたこと」を書いていこうと思います.

しずおかMaaS のホームページはこちら


MaaS とは?

MaaS (Mobility as a Service)
複数の交通手段を統合し,「検索・予約・決済」を一括でできるようにし,自家用車よりも便利な交通を提供しようという概念

今まで,経路検索アプリはありましたが,予約は新幹線のサイトに飛んで,決済はその都度行うのが現状です.
MaaS が目指すものは,一つのアプリ上で,経路検索と予約と決済が完結した状態です.

駅に着くタイミングを見計らってタクシーを予約したり,駅でチケットを受け取ったりするのではなく,移動の前に全ての予約ができており,駅に着いたらタクシーにすぐ乗れる,支払いもクレジットから自動で引き落とされる,というようになればシームレスな移動を行うことができます.

MaaS は公共交通利用を増やし,自動車依存度を減らし,高齢者の自動車事故や交通渋滞などの社会問題を解決する手段としても期待されています.

2014年にフィンランドで生まれたMaaS ですが,2018年に日本でも知られるようになり,多くの企業が各地で実証実験を行っています.

MaaS については,書籍「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」が参考になります.


しずおかMaaS とは?

静岡市で行われているMaaS のプロジェクトを「しずおかMaaS」と言います.静岡鉄道や静岡市などが中心となって実証実験を行っています.

実証実験の対象範囲(しずおかMaaSホームページより引用)

今回の実証実験の注目ポイント
・ AI相乗りタクシー
・ 電車やバスと相乗りタクシーを組み合わせた経路検索

・AI相乗りタクシー

同じような目的地・経路を移動する人を相乗りさせるタクシーを「相乗りタクシー」と呼びます.どの人とどの人を相乗りさせるかをAI(最適化・シミュレーション)により判断しています.相乗りタクシーは、多くの人を運べる「バス」と,柔軟に移動できる「タクシー」の両方の面を持ち合わせた交通手段です.乗客にとっては値段が通常のタクシーより安い点がメリットであり、交通事業者にとっては運行コストを減らせる点がメリットとなります.今回の実証実験では21台のタクシーに相乗りのシステムが載っています.

AI相乗りタクシーのシステムは,株式会社「未来シェア」が提供しています.未来シェアは,しずおかMaaS 以外にも,ドコモのAI運行バスやJTBの観光型MaaS ,12月から行われるIzuko などに同様のシステムを提供しています.

未来シェアについては,書籍「スマートモビリティ革命」が参考になります.

相乗りタクシーという呼び方ですが,他には,乗合タクシーや便乗タクシー,オンデマンドバス,AI運行バスなどがあります.

以前,私がオンデマンド型交通についてまとめた記事では,相乗りタクシーは「事前に同じような移動をする人をマッチングさせたもの」と書きましたが,今回は「乗車前でも乗車中でも同じような移動をする人をひとまとめに移動させるもの」となっています.大きな分類の仕方では,オンデマンド型乗合交通のうちの一つだと言えます.

・電車やバスと相乗りタクシーを組み合わせた経路検索

複数の交通手段を統合するMaaS.しずおかMaaS では,「電車・バス・相乗りタクシー」が対象となっています.

今までの経路検索は,例えばGoogle Maps なら,

  • 電車やバスを乗り換えて行く経路
  • 自家用車で行く経路
  • タクシーで行く経路
  • 徒歩で行く経路

という分類がされていました.

電車やバスは時刻表と路線が決まっているため,それらを組み合わせることで経路を探索できたのですが,MaaS ではタクシーなどの自由に移動できる交通手段との組合せも考えなければなりません.

つまりMaaS になると,今までの経路探索よりも複雑な問題を解かなければなりません.具体的には,タクシーのあと電車に乗る場合,タクシーではどれくらいの時間がかかるから,何分の電車に乗ることになるという,予測が必要になります.その予測が間違ってしまうと,乗りたかった電車に乗れなくなり,希望の到着時刻に遅れてしまうかもしれません.

最近,Google Maps やBaidu Maps では,電車やバスとタクシーを組み合わせた経路も検索できるようになりました.

今回のしずおかMaaS では,電車やバスと相乗りタクシーを組み合わせた経路が検索できるようになっています.


しずおかMaaS を体験

今回のしずおかMaaS はwebアプリで検索・予約を行います.

体験する前に

登録方法

※ 登録にはルルカカードの会員になっておく必要があります.

1. Web サイトで以下を登録

  • 個人情報(氏名,メアド,住所,生年月日,電話番号)
  • ルルカNo
    1. ログインIDとパスワードが記載してあるメールが届く
    2. メールに記載されてあるURL でログイン画面に飛び,クレジットカードを登録
    3. 地図が表示され,使用可能に

今回の実証実験の目的

体験する前に目的を確認しておきます.実証実験のサイトによると目的は以下の3点のようです.

  • 相乗りタクシー(有償運賃)の社会受容性の検証
  • 路線バス,鉄道,相乗りタクシーの一括検索・予約システムの稼働性検証
  • サービス利用意向のアンケート調査

静岡市でのAI相乗りタクシーの実証実験は2019年2月にも行われていますが,そのときは無料で,他のバスや鉄道と組み合わせた経路は検索・予約できませんでした.今回はその点が改善されています.

個人的な体験の目的

以下の点を知ることを目的とします.

  • Webアプリの使用感
  • AI相乗りタクシーの使用感
  • 複数交通手段の使用感
  • 認知度

いざ体験

静岡駅に到着し、webアプリを立ち上げてみます.

※ iPhoneのsafariを使う場合,位置情報サービスをオンにしておく必要があります.自分は最初オフにしていて経路が検索できずにいました…

位置情報をオンにして準備完了です.移動した経路は3つです.

① 静岡駅→駿府城(相乗りタクシー)
② 新静岡駅→こども病院(電車+相乗りタクシー)
③ こども病院→静岡駅(相乗りタクシー)

① 静岡駅→駿府城(相乗りタクシー)

最初は相乗りタクシーの移動のみを体験してみます.
静岡駅から駿府城跡までの経路を検索.

相乗りタクシーはSAVSのマークがついています.

運賃は518円.ちなみにJapanTaxiが690円なので相乗りタクシーのほうが安いですね.

予約を確定すると乗車予定時刻が表示されます.

予定時刻ぴったりに来ました.

(このタクシーの車両は,静岡市のお茶をアピールするためのものらしく,しずおかMaaS のためではないようです.)

乗る際は4桁のIDの番号を確認するだけで,目的地を伝える必要や,支払いをする必要がないのでとてもスムーズに乗車・降車できました.

問題は,車両と乗客の相互の確認をどう行うかです.今はまだ車両数,使用者数ともに少ないので雰囲気(アイコンタクト?)で確認が取れますが,使用者数が多くなってきたときにどうするかは課題となってきます.

到着も予定時刻ちょうどでした.

② 新静岡駅→こども病院(電車+相乗りタクシー)

次に,複数交通手段を使うために,新静岡駅からこども病院までの移動をしてみました.

相乗りタクシー,電車+相乗りタクシー,バスの選択肢があります.(他にもたくさん選択肢が提示されます.)

相乗りタクシー
電車+相乗りタクシー
バス

電車+タクシーを選択し,予約しようとしましたが,なんと相乗りタクシーはこのケースでは予約できないようです.

相乗りタクシーのみ,もしくは相乗りタクシーが最初の場合のみ予約ができる仕組みになっているそうです.

そこで,電車に乗り,乗り換え駅の古庄駅への到着時刻と相乗りタクシーの出発予定時刻を照らし合わせ,電車の中で相乗りタクシーを予約.

しかし,これだと今までの交通手段毎に予約する形態と変わらないですね...ここの自動化ができると利便性が高まると思いますが,現状はそうはなってないです.

14:15に古庄駅に到着し,14:24に相乗りタクシーに乗車.途中で相乗りタクシーを予約することになったので,乗車が提示された経路よりも遅れ,結局こども病院に着いたのは8分遅れの14:36でした.

③ こども病院→静岡駅(相乗りタクシー)

最後に,相乗りを期待して,こども病院から静岡駅まで移動してみます.

乗車した後,移動中になんと相乗りが発生しました.しかも2人も!

ドライバーさんが相乗りは一度もありませんって言ってたのですが,自分が乗ってから5分後と10分後に予約が入り,相乗りとなりました.

お二人とも同じ場所からの乗車でしたが,お一人は古庄駅,もうお一人は新静岡駅付近の区役所を目的地とされてました.(自分のWebアプリからは他の人の情報はわからないですが,ドライバーさんが教えてくれました)

今回のように,同じ場所から複数人が予約する場合は,番号がどれがどっちかわからなくて,一人で乗車する場合よりも少し時間がかかりました.

また相乗りが発生したのはとても嬉しかったのですが,相乗りのため自分は大幅に迂回することになりました.

黒:自分,青:他人①,赤:他人②,灰:実際の経路
アプリの画面

降車予定時刻は15:51だったのですが,相乗りが発生しても予定時刻は変わらず,実際に静岡駅に着いたのは約10分遅れの16:02でした.


体験したみた感想

体験前に挙げていた以下の項目で感想を述べていきたいと思います.

  • Webアプリの使用感
  • AI相乗りタクシーの使用感
  • 複数交通手段の使用感
  • 認知度

Webアプリの使用感

出発地・目的地の設定

地名を検索するか,地図上のピンで設定します.
目的地の場所にオレンジのピンをセットするのですが,その場所をタッチするのではなく,地図のほうを動かしてピンがある場所に目的地を合わせる仕様になっています.慣れれば大丈夫ですが,最初は少し気持ち悪かったり...(これはGoogle Mapでも同じUIですね)

バス

経路の選択

下の部分に交通手段のアイコンが出てきて,そこをタップすると地図上の経路と詳細が表示されます.まず地図上の経路ですが,直線で示されていて,具体的にどのような経路を通るかがわからないです.
また経路の詳細ですが,移動時間と費用の合計が見られず,自分で頭の中で計算しないといけないのが地味に面倒くさいです.

そして経路の選択肢が10個くらいあり,どの経路を選択して良いかをすぐには判断できなかったです.現状は可能性のある経路をすべて表示していると思われます.どのような選択肢を表示するかは今後の課題になるのかなと.

タクシーの現在位置

予約を確定すると,迎えに来るタクシーの現在位置が(1秒毎に更新して)表示されるので,そろそろ来そうだなというときにタクシーを見つけに行けば良いのは便利です.加えてタクシーが乗車位置に近づいてきたときに通知が来るような仕組みがあると良いなと思いました.

タクシーが近づいてくる様子

AI相乗りタクシーの使用感

利便性

前述したとおり,乗車時はIDを確認するだけで,目的地を伝えることなくスムーズに乗れます.また今回は事前に価格が決まっているためメーターを気にする必要がなく,降車時も支払いをしなくて良いので,とても便利だと思いました.しかしこれは,Uber などのライドヘイリングや配車タクシーサービスと同様なので,新しさはありません.

料金

通常のタクシーよりも安くなっており,お得感があります.静岡駅からこども病院まで(約4km)が,通常は約1,500円のところが約1,000円で移動できました.タクシーのドライバーさんもその安さに驚いていました.

相乗り

相乗りが発生すると迂回が生じ,到着が遅れます.相乗りタクシーは相乗りによる移動時間の延長の可能性を考慮し,通常のタクシーより料金が安くなっているのですが,相乗りが発生しても,発生しなくても同じ料金です.

今回の実証実験では,相乗りにより到着予定時刻よりも10分遅れての到着(経路検索で提示された到着時刻よりは30分遅れての到着)となり,相乗りが発生したときにどうしても損をした気分になります.

ただ,他の未来シェアによる相乗りタクシーの実証実験ですと,何時までには到着したいという制約が設定できるらしいので,「希望の到着時間に遅れてしまう」ことはないと思います.

相乗りが発生したときには更に料金を下げる仕組みがあると,満足度が上がると思いました.(迂回時間と料金の関係をどうするかが難しそうですが)

複数交通手段の使用感

自分が一番期待していたのが,複数交通手段の経路検索・予約なのですが,残念ながら予約の部分は体験することができませんでした.

しかし,駅に着いたときにタクシーがちょうど迎えに来て乗せていってくれる世界になれば,公共交通の利便性が格段に上がるなと,電車+相乗りタクシーの経路を検索して,実際に移動してみて感じました.

自家用車よりも便利な交通を実現するためには,出発地→目的地の移動をdoor to door にする必要があります.そのためには,多様なモビリティサービスとAI技術の応用が鍵となります.

ライドヘイリングや配車タクシーはとても利便性が高いです.相乗りタクシーは料金の面でメリットがあります.タクシーやバスを使うまでもない短距離の移動は,シェアサイクルやキックボードなどが向いてます.電車は何といっても最大のシェアモビリティです.法律的に導入が難しい面がありますが,今回の実証実験のように少しずつ新たなモビリティを普及させていって,交通手段を増やしていくことがdoor to door の移動の実現には必要だと再認識しました.

またAI技術(簡単のためAIでまとめてます...)は,需要や移動時間を予測する機械学習系の技術や,様々な制約下での最適化技術,現在の交通を再現し,将来の交通を予測するシミュレーション技術などがありますが,研究のほうではとても盛んに発展しています.こちらも技術的というよりは,法律的・政治的に難しい部分があると思いますが,研究を社会実装する段階に来ているのかなと思いますし,実際に導入されていっています.

認知度

タクシーのドライバーさんに聞いたところ,相乗りタクシーの使用頻度は1日1,2回で,相乗りは10回に1回起こるかどうかということでした.また利用者は,関係者の方やサービス利用を促された大学のサークルの方が多く,一般の方に認知されてはいないようでした.(自分が相乗りになった方も関係者のようでした)

駅や商業施設にポスターやチラシが貼っているわけでもなく,ドライバーさんによるとCMが流れているとか流れていないとかで,一般の方は実証実験の存在に気づきにくい,という印象でした.


まとめ

しずおかMaaS の実証実験の体験をしてきました.今回の実証実験では「AI相乗りタクシーの有償化」と「複数交通手段の経路検索・予約」が新しい部分でした.1つ目のAI相乗りタクシーですが,料金面でのメリットが大きく,配車サービスとの差別化が図れるのではと思いました.2つ目の複数交通手段については,予約ができなかったのであまり言及できませんが,検索・予約・決済が一元化されたときのインパクトは大きいと感じました.現状は実証実験を繰り返して,認知度とシステムのパフォーマンスを上げていく段階だと思います.

多くの企業が各地でMaaS の実証実験を行っていますので,お近くでもしくは出張先などで実際に体験されてみてはいかがでしょうか.

西田 遼
西田 遼

東北大学大学院情報科学研究科 修士2年
産業技術総合研究所 人工知能研究センター 社会知能研究チーム RA

悪いイマイチ普通良い最高! (3 投票, 平均: 5.00 / 5)
読み込み中...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です